給付付き基礎日額
■給付付き基礎日額の原則(法8条1項、法8条の5)
「給付基礎日額は、労働基準法第12条の平均賃金に相当する額とする。給付基礎日額に1円未満の端数があるときは、これを1円に切り上げるものとする」とされる。つまり、給付基礎日額は、平均賃金と同様の方法で算定されるが、1円未満の端数については、これを1円に切り上げて算定する。
■給付基礎日額の特例(法8条2項、則9条1項)
給付基礎日額には、以下に述べる最低保証の特例が設けられており、平均賃金により労働者に有利なものとなっている。
最低保証の特例
1:私傷病で休業した場合など
2:塵肺患者の場合など
3:船員の特例
4:自動変更対象額の保障
1)私傷病休業者などの特例(則9条1項1号、4号、昭和52条3月30日基発192号)
平均賃金相当額(給付基礎日額)の算定期間中に「業務外の自由による負傷または傷病の療養のために休業した期間」や「親族の傷病または負傷などの看護のため休業した期間」がある場合は、そのまま平均賃金相当額を算定すると、給付基礎日額が低くなるおそれがある。そこで、このような休業を伴う場合は、その休業期間中の日数や賃金を算定基礎から除外して算定した平均賃金相当額を、給付基礎日額として最低保障する。
2)塵肺患者などの特例(則9条1高2号、4号、昭和57年4月1日基発219号)
労働者が、「塵肺」または「振動障害」にかかった場合は、通常、作業・業務の転換が行われ、それに伴い賃金水準も低下するので、そのまま平均賃金相当額を算定すると、給付基礎日額が低くなるおそれがある。そこで、このような労働者の場合は、作業転換前の期間で算定した平均賃金相当額を、給付基礎日額として最低保証する。
3)船員の特例(則9条1項3号、4号、平成21年12月28日基発1228,2号)
1年を通じて船員として船舶所有者に使用されているものの賃金について、基本となる固定休のほか、船舶に乗り込むこと、船舶の就航区域、船積貨物の種類などによって変動がある賃金が定められている場合などには、そのまま(算定期間3ヶ月で)平均賃金相当額を算定すると、その算定自由が発生した時期によって給付基礎日額が著しく変動してしまうおそれがある。そこで、このような場合には、算定事由発生日以前1年間について算定することとした場合における平均賃金相当額を給付基礎日額とする。
4)自動変更対象額の特例(則9条1項5号、平成23年厚労告247号)
「平均賃金相当額が自動変更対象額(3,960円)に満たない場合には、自動変更対象額(3,960円)とする」とされ、給付基礎日額は、3,960円が最低保障される。ただし、給付基礎日額についてスライドが行われた場合は、スライド後の給付基礎日額について最低保障をかけるので、次のようになる。
<1.平均賃金相当額にスライド率を乗じた額が、自動変更対象額(最低保障額)以上のとき>
この場合は、平均賃金相当額が自動変更対象額未満でも、当該平均賃金相当額を給付基礎日額とする。
<2.平均賃金相当額にスライド率を乗じた額が、自動変更対象額(最低保証額)に満たないとき>
この場合は、平均賃金相当額は低すぎて使えないので、自動変更対象額から逆算して給付基礎日額を算定する。つまり、自動変更対象額をそのスライド率で除して得た額(その額に1円未満の端数があるときは、これを切り捨てるものとし、当該端数を切り捨てた額が平均賃金相当額に満たない時は平均賃金相当額とする)が給付基礎日額となる。
■自動変更対象額の変更(則9条2項~4項)
「厚生労働大臣は、年度の平均給与額が直近の自動変更対象額が変更された年度の前年度の平均給与額を超え、または下がるに至った場合においては、その上昇し、または低下した比率に応じて、その翌年度の8月1日以後の自動変更対象額を変更しなけれなならない。厚生労働大臣は、自動変更対象額を変更するときは、当該変更する年度の7月31日までに当該変更された自動変更対象額を告示するものとする」とされ、自動変更対象額は、毎年、賃金スライド改定が行われている。