損害賠償と調整
■第三者が有責者である場合(法12条の4)
1)調整の方法(法12条の4、則22条)
「政府は、保険給付の原因である事故が第三者の行為によって生じた場合において、保険給付をしたときは、その給付の価額の限度で、保険給付を受けたものが第三者に対して有する損害賠償の請求権を取得する。この場合において、保険給付を受けるべきものが当該第三者から同一の事由について損害賠償を受けたときは、政府は、その価額の限度で保険給付をしないことができる」とされる。
なお、第三者行為災害が発生したときは、保険給付を受けるべきものは、その事実、第三者の氏名及び住所(第三者の氏名及び住所がわからないときは、その旨)並びに被害の状況を、遅滞なく、所轄都道府県労働局長に届けなければならない。
※保険給付を行った時は、政府はその価額の限度で被災労働者が保険会社に対して有する損害賠償請求権についても取得する。
2)調整の範囲と期間(昭和32年7月2日基発551号、昭和41年6月17日基発610号、昭和52年3月30日基発192号)
保険給付との調整の対象となる損害賠償は、保険給付によっててん補される損害をてん補する部分に限られる。したがって、損害賠償のうち、逸失利益(災害がなければ稼働して得られたであろう賃金分)、療養費、葬祭費用並びに介護損害をてん補するものが調整対象となる。逆に言うと、精神的損害や物質的損害は、保険給付によっててん補されないので、慰謝料、見舞金、香典などの名目でこれらについて損害賠償を受けても調整の対象とはならない。
また、損害賠償との調整は、災害発生後3年に支給事由の生じたもの(年金たる保険給付については、この期間にかかるもの)についてのみ、行うこととされる。
※慰謝料、見舞金、香典などは、原則として、調整対象とならないが、第三者行為災害の場合は、転給者に支給される遺族(補償)年金も、損害賠償との調整の対象となる。
■事業主が有責者である場合(法附64条)
1)民事損害賠償側での調整(法附64条1項)
障害(補償)年金又は遺族(補償)年金の受給権者(当該年金給付の受給権を取得したときに前払い一時金給付を請求することができる者に限られる)が、同一の事由について、事業主からこれらの年金給付に相当する民事損害賠償を受けることができるときは、事業主は、当該年金給付の受給権が消滅するまでの間、前払い一時給付の最高限度額(ただし、法定利率により現価に換算した額)の限度で、損害賠償の履行をしないことができる(履行猶予)。
そして、この損害賠償の履行が猶予されている場合において、受給権者に労災保険から年金給付又は前払一時金給付が支給されたときは、事業主は、その支給額(ただし、法定金利により現価に換算した額)の限度で、損害賠償の責を免れる。
2)労災保険給付の側での調整(法附64条2項、則附44条)
保険給付の受給者が事業主から民事損害賠償を受けることが出来る場合において、当該受給権者が事業主から保険給付の事由と同一理由について損害賠償を受けたときは、政府は、その価額の限度で、保険給付をしないことができる。
ただし、当該受給権者が前払一時金給付を請求することができる年金給付を受けるべき場合においては、前払一時金給付の最高限度額に達するまでの年金給付(ただし、最初の年金給付の支払期月から1年経過月以後の分は年5分の単利で割り引いて合算した額をいう)については、損害賠償を受けても支給調整されない。
3)労災保険給付の支給調整基準(昭和56年6月12日基発60号、昭和56年10月30日基発696号)
労災保険給付の支給調整は、次のような「労働政策審議会の議を経て厚生労働大臣が定める基準」の下に行われる。
1:対応する保険給付がない精神的損害や物理的損害に対する損害賠償はもちろんのこと、労災保険給付に上積みして支給される企業内労災補償、示談金、和解金、見舞金などについても、調整の対象としない。
2:受給権者本人以外の遺族が受けた損害賠償は、調整の対象としない。
3:転給により受給権者をしとくしたものについては、支給調整は行わない。
4:支給調整は、次のいずれか短い期間を限度として行う。
<1>9年が経過するまでの期間
<2>就労可能年齢を超えるに至った時までの期間