契約期間など
資本主義経済の初期においては、労働者が会社を「辞めたくても辞められない」ようにするために長期の労働契約を結ぶということが行われていた。従来、労働基準法は、このような人身拘束の弊害を排除するために、契約期間は原則として1年までとしてきた。しかし、資本主義社会が成熟してきた今日では、むしろ「辞めたくないのに辞めさせられる」という弊害も生じているので、この契約期間の上限は引き上げられる傾向にあり、平成15年の法改正により、現在では原則として「3年」までとされている。
■契約期間の上限の原則(法14条1項)
1)3年の上限(法14条1項本文)
「労働契約は、機関の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、3年を超える期間について締結してはならない。」とされる。
つまり、労働契約の契約期間の上限は一般的には3年であり、例えば契約社員と10年間の労働契約を締結するようなことは基本的には禁止されている。
※10年の期間を定めて契約をしたような場合には、本条違反について使用者に対してのみ罰則が適用され、労働契約の期間については法13条により、3年または5年に短縮される。
2)5年の上限(法14条1項各号)
高度の専門的能力を有する労働者が、その能力を十分に発揮するための環境整備に寄与するとともに、高年齢者の経験や能力を活かせる雇用の場を確保するなどの見地から、次の労働契約については、労働期間の上限が、5年とされる。
1:専門的な知識・技術・経験(以下「専門的知識など」)であって高度のものを有する労働者(当該硬度の専門的知識などを必要とする業務につくものに限る)との間に締結される労働契約。
2:満60歳以上の労働者との間に締結される労働契約
※60歳以上であれば5年契約でもよい。
■契約期間の上限の例外(法14条1項)
「一定の事業の完了に必要な期間を定める労働契約」については、3年(5年)を超える期間の労働契約を締結することができる。つまり、建設工事などの有期的事業の場合は、その完了までの期間の労働契約を締結することができる。
※建築工事であり、その完了に10年係るようなときは、10年契約でもよい。
■任意退職(法附137条)
期間の定めのある労働契約を締結した労働者であっても、当該契約の期間の初日から1年を経過した日以後においては、その使用者に申し出ることにより、いつでも退職することができる。
■労働契約期間満了の通知などについての基準(法14条2項、3項)
「厚生労働大臣は、期間お定めのある労働契約の締結時及び当該労働契約の期間の満了時において労働者と使用者との間に紛争が生ずる事を未然に防止するため、使用者が講ずべき労働契約の期間満了にかかる通知に関する事項その他必要な事項についての基準を定める事ができる。」とされ、具体的には次の基準が定められている。
有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準(平成20年厚労告12号)>>
1:使用者は、期間の定めのある労働契約の締結に際し、労働者に対して、当該契約の期間の満了時における当該契約に係る更新の有無を明示する。
2:1:の場合において、使用者が当該契約を更新する場合がある旨を明示したときは、使用者は、労働者に対して当該契約を更新する場合または更新しない場合の判断基準を明示しなければならない。
3:使用者は、有期労働契約の締結後に1:2:の事項に関して変更する場合には、当該契約を締結した労働者に対して、すみやかにその内容を明示しなければならない。
4:使用者は、有期労働契約(雇入れの日から起算して1年を超えて継続勤務しているものに係るものに限り、予め当該契約を更新しない旨明示されているものを除く)を更新しないこととしようとする場合には、少なくとも当該契約の期間満了する日の30日前までに、その予告をしなければならない。
5:4:の場合において、使用者は、労働者が更新しないこととする理由について証明書を請求したときは、遅延なくこれを交付しなければならない。
6:有期労働契約(雇入れの日から起算して1年を超えて継続勤務しているものに係るものに限り、予め当該契約を更新しない旨明示されているものを除く)が更新されなかった場合において、使用者は、労働者が更新しなかった理由について証明書を請求したときは、遅滞なくこれを交付しなければならない。
また、「行政官庁は、この基準に関し、機関の定めのある労働契約を締結する使用者に対し、必要な助言及び指導を行うことができる。」とされる。