社会保険労務雇用関連疑問悩み問題解決

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年次有給休暇(法39条)

 ■発生要件(法391項、最高裁判例)

 「使用者は、その雇入れの日から起算して6ヶ月間継続勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した10労働日の有給休暇を与えなければならない」とされる。

 なお、年次有給休暇の権利は、当該法定の要件を満たすことによって法律上当然に労働者に生ずる権利であり、労働者の請求を待って初めて生ずるものではない。

 ※育児休業申出後の育児休業期間などのように、労働の義務が免除されている期間について、年次有給休暇を請求することがはできない。

 

1)6ヶ月の継続勤務(昭和63314日基発150号)

 年次有給休暇の権利が発生するためには、まず、「6ヶ月間継続勤務」しなければならない。この「継続勤務」とは在籍期間をいう。パート社員を正社員に切り替えたような場合や定年退職による退職者を引き続き嘱託などとして再採用しているような場合でも、実質的に労働関係が継続している限り「継続勤務」として勤務期間を通算しなければならない。

 なお、紹介予定派遣などによる派遣労働者が、引き続き派遣先に雇用された場合には、派遣元との雇用関係が終了し、新たに派遣先での雇用関係が開始されることとなるので、派遣就業していた期間(派遣元での在籍期間)については、派遣先に係る勤続勤務として取り扱わなくて良いこととなる。

 ※紹介予定派遣により派遣させていた派遣労働者が、引き続いて当該派遣先に雇用された場合、当該派遣期間については、年次有給休暇の付与用件である継続勤務したものとして取り扱わなくてよい。

 

2)8割以上の出勤率(法398項、昭和63314日基発150号)

 年次有給休暇の権利が発生するためには、次に、「全労働日の8割以上」が「出勤日」でなければならないが、「全労働日」とは、労働契約上労働義務にある日のことであり、具体的には、次の算式で求められる。

 雇入れの日から6ヶ月間(算定期間)の総歴日数から1:5:をひいて求められる。

1:所定の休日(その日に休日労働をしていても全労働日には含めない)

2:使用者の責に帰すべき事由による休業日

3:正当な争議行為により労務の提供が全くなされなかった日

4:公民権の行使・公の職務執行による休業日

5:代替休暇の取得日

 

一方、「出勤日」には、「出勤したものとみなす休業日」も含まれ、具体的には、次の算式で求められる。

 労働日の内出勤した日(休日出勤は含めない)から1:5:をひいて求められる。

1:業務上負傷した又は疾病にかかり療養のために休業した期間

2:育児休業期間

3:介護休業期間

4:産前産後の休業期間

5:年次有給休暇取得日(昭和22913日発基17号)

 

時季指定権と時季変更権(法395項)

 「使用者は、年次有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に年次有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる」とされる。

 なお、「時季」とは、「バカンスのように季節的であることが望ましい時期」ということである。

 ※派遣労働者の場合は、事業の正常な運営が妨げられるかどうかの判断は、派遣元の事業についてなされる。

 

年次有給休暇の成立と効果

 年次有給休暇は、前記■発生要件を満たした場合において、労働者がその有する年次有給休暇の日数の範囲内で、具体的に年次有給休暇の始期と周期を特定して時季指定をし、かつ、前記■時季指定権と時季変更権の使用者による有効な時季変更権の行使がないときに、成立する。年次有給休暇が成立すると、その時季指定された日について、労働義務が消滅する。

 ※1:育児休業申出後の育児休業期間などのように、すでに労働義務が免除されている期間については、年次有給休暇の請求はできない。

 ※2:育児休業申し出前に年次有給休暇の時季指定をした場合には、その後、当該指定した日を含めた期間につき育児休業を取得した時であっても、すでに年次有給休暇が成立しているので、その日は、年次有給休暇の日となる。

 

付与日数(法392項)

1)付与日数の加算

 年次有給休暇の付与日数は、入社して最初の6ヶ月間継続勤務すると、まず、10労働日となる。6ヶ月経過日以降2年間は、1年継続勤務するたびに1労働日が加算され、26ヶ月経過日以降は、1年継続勤務するたびに2労働日が加算される。ただし、付与日数は20労働日で打ち止めになるので、入社して66ヶ月後に20労働日となって以後は、毎年20労働日となる。

 なお、当該付与日数は「法定のもの」なので、これを減ずるようなことをしてはいけません。例えば、年度途中で労働者が退職することになったとしても、法定の付与日数を付与しなければならず、年度当初から退職時期までの月数で按分した日数を付与するようなことはできない。また、労働者が退職前に年次有給休暇を請求してきた場合に、その付与日を退職日を超えて時季変更することはできないし、計画的付与を実施しているから(計画的付与日が退職後の日に設定されているから)という理由で当該請求を拒否することもできない。

 ※年次有給休暇の権利は2年で時効により消滅する(法115条)。したがって、年次有給休暇をその年度内に全部取得しない場合、その未消化日数については翌年度に繰り越すことができる。

 

2)8割以上出勤しなかった場合の付与日数

 年次有給休暇は、算定期間中の出勤率が8割未満であると、その年の分は付与されませんが、そのことにより付与日数が変わるわけではない。

 例えば、入社後の6ヶ月間の出勤率が8割未満であると、年次有給休暇の権利はまだ発生しない。その次の出勤率が8割以上であれば、初めて年次有給休暇の権利が発生するが、16ヶ月目の付与なので、10労働日ではなく、11労働日になる。

 

比例付与(法393項、則24条の3

 次の労働者(1周間の所定労働時間が30時間以上のものを除く)の年次有給休暇の日数については、そのものの基準日(6ヶ月経過日、16ヶ月経過日など)における所定労働日数に応じて、次表のように比例付与された日数となる。

1:1周間の所定労働日数が4日以下の労働者

2:週以外の期間によって所定労働日数が定められている労働者については、1年間の所定労働日数が216日以下の労働者

 

所定労働日数

4169216日:6ヶ月経過後7日付与、のち1年ごとに8910121315

3121168日:6ヶ月経過後5日付与、のち1年ごとに66891011

273120日:6ヶ月経過後3日付与、のち1年ごとに445667

14872日:6ヶ月経過後1日付与、のち1年ごとに222333

 

時間単位の年休の付与(法394項、則24条の4

 使用者は、労使協定により、次の1:4:の事項を定めた場合において、1:の労働者の範囲の属する労働者が年次有給休暇2:の日数については、労使協定で定めるところにより、時間を単位として年次有給休暇(時間単位年休)を与えることができる。なお、この労使協定は、行政官庁に届け出る必要はない。

1:時間を単位として有給休暇を与えることができることとされる労働者の範囲

2:時間を単位として与えることができることとされる有給休暇の日数(5日以内に与える)

3:時間を単位として与えることができるとされる有給休暇1日の時間数{1日の所定労働時間数(日によって所定労働時間数が異なる場合には、1年間における1日平均所定労働時間数。4:において同じ)を下回らないものとする}

4:1時間以外の時間を単位として有給休暇を与えることとする場合には、その時間数(1日の所定労働時間数に見たないものとする)

 ※年次有給休暇を日単位で取得するか時間単位で取得するかは、労働者の選択に委ねれる(例えば、労働者が日単位で取得することを希望した場合に、使用者が時間単位に変更することはできない)。

 

計画的付与(396項、昭和63314日基発150)

 使用者は労使協定を締結(当該協定を行政官庁に届け出る必要はない)することにより、労働者が保持する年次有給休暇の日数のうち、5日を超える部分については、労使協定で定めた時季に与えることができる。

 なお、一般に労使協定は、その協定に定めることによって労働させても罰則の適用を受けない程度の効力(免罰効果)しか有さないが、当該労使協定については、これに時季を定めることにより、当該計画的付与部分に対する労働者の時季指定権と使用者の時季変更権を消滅させる効力を有している。したがって、その後事情が変わったとしても、労使協定を再締結しない限り、労使協定で定めた時季を変更することはできない。

 ※計画的付与の対象となる年次有給休暇の日数には、前年度繰越分も含まれる。また、比例付与されたものでも差し支えない。

 

休暇中の賃金(法397項、則252項、3項)

 「使用者は、年次有給休暇の期間については、就業規則その他これに準ずるもので定めるところにより、返金賃金又は所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金を支払わなければならない。ただし、労使協定により、その期間について、健康保険法に定める標準報酬日額に相当する金額を支払う旨を定めたときは、これによらなければならない。」とされ、休暇中の賃金については、就業規則などに、1:平均賃金、2:通常の賃金又は3:標準報酬日額(標準報酬日額を用いる場合は、労使協定の締結が必要)のいずれかで支払うかを定め、それに従って支払わなければならない。

 ※変形労働時間制を採用してる事業場における時給制労働者の変形期間における「通常の賃金」は、頭蓋変形期間中の「各日の所定労働時間」に応じて算定される。

 

不利益取り扱いの禁止(法附136条)

 

 「使用者は、年次有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取り扱いをしないようにしなければならない。」とされる。なお、本条は、訓示規定又は努力義務規定と解されており、本条違反についての罰則は設けられていない。